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2013年4月21日 (日曜日)

良夫さんの幸福な一日

つつましく生きる良夫さんの物語。

良夫さん(仮名)75歳。

一人暮らしの良夫さんの楽しみは、煙草とコーヒー。

目が覚めると、顔も洗わず近所を徘徊する。

徘徊するとは、何となく足が動くことであり、介護の人が良夫さんの行動をそう呼ぶ訳ではない。

でも、最近よく転ぶようになった。

良夫さんは、転んでから、転んでいることに気がつく。砂交じりの黒っぽい土の色が、青い空の色に変わっている。

顔を拭うと赤い血が手の皺に沁みこむ。

痛いわけではない。

どうして痛くないのかは分からない。ヘルパーさんは、病気で感覚が無くなっているんじゃないというが、そんな病気だとは思っていない。それでも、病院に行くのは好きである。

病院に行くと色々面倒を見てくれるし、話し相手にもなってくれる。

お金がかからなければ毎日でも病院に行きたいと思っている。

さて、散歩の話しである。

転ぶことはあっても、顔面が地面にぶつかることがあっても徘徊と煙草は止められない。それにコーヒーも。

散歩から帰ると何か食べる。何を食べているかすぐに忘れるが、その辺にある昨日買った食糧を食べている。弁当を取れと云われるが、弁当を待っているのがおっくうで、出かけてしまう。

出かけるのは、ドトールである。ここはいい、コーヒー1杯で何時間でもいられる。煙草を吸ってもうるさくない。最近は、女の人がよく煙草を吸っている。疲れた顔で、煙を出して綺麗な顔に煙のパックをしている。

良夫さんは煙草を吸う女の人が嫌いだ。やはり、煙草は吸わない方がいいと思っている。それは、女の人も、自分も。

ドトールに3時間座っている。

することは、煙草を吸うことと、水を飲むこと。何かを考えているんだろうけれど、すぐに忘れる。まあ、そんな時間が楽しいし大切だと思う。

不思議にあまりお腹が空かない。それでも、時間だから飯を食べに店を出る。

食べるのはいつも決まった店である。丼物が多い。店を変えると面倒なので、いつも同じ店になる。すると、おんなじような顔に会う。

午後は、病院に行ったり、銀行に行ったり、センターに行ったり、結構忙しい。

そこで、友達に会う。会えば長い話になる。

話をしていると「金がない」ということになり、「すこし貸してくれないか」と云われる。良夫さんも金を借りることも貸すこともあるが、最近は止めている。理由は言いたくない。

そんなこんなでアパートに帰る。

疲れたなと座ると、電話がある。「どうしてますか?」と優しく介護の人に聞かれるけれど、いつも同じことを聞かれるのもめんどくさいので、「ええ、まあ」と答えるようにしている。

買ってきた焼き鳥を食べながら、何となくテレビを見ている。言っていることがよく聞き取れないが、テレビが映るだけいいと思ってつけている。

焼酎缶を1本空けたころには、横になって寝てしまう。

幸い、いつも布団が敷いてあるので、寝たい時に寝られる。布団は最近買ってもらい、フカフカで気持ちいい。

寝るのが一番気持ちいい。このまま目が覚めないかと思う暇もなく、夜中に目が覚めてトイレに行く。

ちょっと身震いをして、再び布団にもぐりこむ。

こうして、楽しい一日が終わる。

そして、目が覚めれば、新しい一日が始まる。

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