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2008年6月15日 (日曜日)

自転車に乗って

「自転車に乗って向こうの街まで」と、歌ったのは高田渡だった。

歩くことしかできなかった少年が、自転車に乗れるようになったことで、世界が広がった。自分だけの小さな世界で苦しんでいた少年時は、隣りの町に行った。そこでは、僕と同じような顔をした少年が、同じような悩みを持って生活していることを知った。

そして、電車に自転車を乗せて旅に出た。

大きな荷物を持っていることで、話しかけてくる人が多いことに驚いた。

「どこまで行くんだい兄ちゃん」と、普段着のおじさんが声をかけてくる。

「自転車で・・・」と云うと。

「そうかい、俺も昔はね・・」と、おじさんの昔話が始まった。

大きな荷物を風呂敷に包んだおばさんが、荷物の中のバナナを取り出し、1本、何も云わずに渡してくれた。

二人で、長いすに座り、山を見ながら黙ってバナナを食べた。バナナは青く、すっぱいあじが口の中に広がった。

電車を降りて、走り出した。

初めての町は、初めての匂いがした。

どこまでだって行けそうな気分に浸るのもつかの間、長い坂が現われ、非力な僕は自転車を降りて歩き始める。

歩き始めたとたんに、現実の重さが背中にのしかかる。

すると、雨も降り出してきた。

自転車なんか投げ出したいと思っても、何も持たない僕にはそれさえもできないことを気づく。

そうしていると、いつの間にか下り坂になっている。

突然、目の前が開け、世界が僕のために道を開けてくれたような気分になり、足を開いて坂を下りてゆく。

高校生の時の自分には戻れないが、その時に感じた気持ちを今も味わっている。

好きな女の子を想い、彼女の家の、その角を曲がるときのドキドキを感じながらペダルを漕ぐときのように。

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