« 老人は荒野をめざす | トップページ | 有料相談 »

2006年11月 5日 (日曜日)

可愛そうなミミズのなはし

「神話伝説体系」という昭和3年発行の本がある。
大学時代に清水さんから借りてそのままになっている本だ。清水さんは、白川義員さんの弟子になったようだがその後の消息は分からない。
僕達の結婚式に来て写真を撮ってくれた。大きなカメラを持ち込み、教会の2階にから全員の写真を撮った。光の具合を計り、立ち位置を決め、プロのカメラマンは違うと皆が感心して見守るなかバシッというシャッター音がした。
それから一ヵ月後、新居にやってきた清水さんは、なかなか写真を出さない。帰り間際に差し出したその4つ切りの写真はピンボケだった。
話しはかわり、民族神話は面白い。全3巻になっている全集の第2巻にあたるこの本は、アフリカの神話・伝説が集められている。
当然、アフリカの自然の話が沢山ある。
こども達がバオバブの木の下で話を聞いていたのであろうと想像すると、太鼓でも叩きたくなる気分になる。
「なぜ像の眼は小さいのか」という話がある。
僕もどうしてだろうとずっと思っていた。
興味のある人は続きをどうぞ。

アムボがカラーバールの王様であった頃には、像はあの大きな体をしていたばかりか、その眼も体に相応しいほど大きいものでした。
人々もまた大変獣と仲良くて、一緒に楽しく交際をしていました。
アムボ王のところでは、大勢の家来達を呼び集めて、たびたび盛んな酒盛りがあり、こういうときには、最後まで綺麗にご馳走を平らげてしまうのは、いつも像ばかりでした。像ほどに大きくなくても大変肥えている河馬などでも、食べることにかけては像の敵ではありません。
体こそ小さいが悪智恵にかけては誰よりも勝っている亀は、これが癪にさわって、像の大食をとめようと考えました。
で、彼は、袋に像の大好きな小海老と乾木の実を沢山詰めて、とある午後、像の家を訪ねました。
「いよう、お珍しい。亀さん、まあお座りよ」
こういわれてどっかと腰を下ろした亀は、片方の眼を閉じたまま、袋の中から一つの乾木の実を一つと小海老を取り出して、さも美味しそうに、ぽりぽりと食べはじめました。
いつも食べたい食べたいと思ってもお腹一杯食べることのできな像は、これを見ると、
「へへ、ばかに旨そうに食べているね。いったいなんだい」
と尋ねました。
亀は、
「そりゃ旨いよ。『顎はずし』というものだよ。だが、お前さんには少々痛かろう。私は自分の目を食べているんだから。ほれ」
と答えながら、閉じている片方の目を、像の方に向けました。
像はたまらなくなって、
「そんなに美味しいのなら、わしの眼を一つ取って、食べさせておくれ」
と言いました。
よしよしと心の中で喜んだ亀は、かねがね像がむさぼり食べるのを知っているので、わざわざ持ってきた小刀をそっと握りながら、
「おまえさんがあんまり大きいから、その目のところまでは行けないよ」
と言いました。
像は、大きな鼻をくるりと曲げると、するすると亀を持ち上げました。像の目に近づいた亀は、いきなり小刀を振り上げるが早いか、右の目をえぐり出してしまいました。像は痛さのあまり、唸り声をあげました。けれども、自分の目玉と思って亀からもらった乾木の実と小海老の旨さに、すっかり痛さも忘れていました。
「うまい、うまい。実に旨い。亀さん、もう少し食べさせてもらえないか」
と像はいいました。
「そんなに食べたいのなら、もう一つの目玉をえぐり取らなければならないよ」
「いいとも」
像がこう頷くと、亀は、像の左の目玉もえぐり取り出してしまいました。目玉は地面に落ち、像はとうとうめくらになりました。像の鼻ばしらを伝ってするすると滑り落ちた亀は、いきなり隠れてしまいました。
さあ大変。めくらになった像は、恐ろしく唸りながら、手当たり次第に木を引き裂いては亀を探しはじめました。亀はじっと身を隠したまま息を殺していました。
あくる朝、不自由な身体になった像は、辺りが人の足音で騒がしくなったので、
「いま何時かね」
と叫びました。
側を通っていた牡鹿が、
「お天道様は、もう高いよ。わしは、食事を用意するために、芋と新しい木の葉を市場に買いに行くところだ」
と答えました。
はじめて亀にだまされたと知った像は、人の足音さえ聞けば、
「わしは、目がなくなったんだ。目玉を貸してくれ」
と言い歩きました。けれども誰も自分の目玉が必要なので、一人として像のいうことを聞いてくれるものはいません。すると、のろのろと這いながら近づいてきたミミズが、大きな像を見て、いつものようにうやうやしく挨拶をしました。いつもなら、返事もしてくれない像が今日に限っては、ご機嫌をとるように返事をしてくれたので、大変驚きました。
「ねえ、ミミズさん。わたしは目玉をどこかに置き忘れてしまったようだ。ほんの二三日で結構なだから、お前さんの目玉を貸してもらえないかね。次の市場の日にはすぐに返すよ」
像は、うやうやしく言いました。
像からそう言われたミミズは、夢中になって喜びました。そして、自分の小さな目玉をえぐり出して、像に差出ました。
像は、小さな目玉を頂いて、大きな目の穴に入れてみました。すると、その周りの肉が見る間に上がってきて、小さな目玉はしっかりとくっついてしまい、次の市場の日には取り出すこともできなくなりました。
ミミズは懸命に像の後を追いかけ、目玉を取り返そうとしました。像は、聞こえない風をして逃げているかと思うと、
「俺の姿を見たらミミズどもは道を避けるが賢いぞ。俺は目が小さくなってちっぽけな奴は見えぬから、木っ端微塵に踏み砕いてしまうかもしれんぞ。うるせえ蠅ども。そこを、どかぬか」
と怒鳴りつけました。
こうして、ミミズは目がなくなり、像は身体に似合わぬ小さな目玉を持つようになりました。

|

« 老人は荒野をめざす | トップページ | 有料相談 »

あいまいの知」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/160222/12560341

この記事へのトラックバック一覧です: 可愛そうなミミズのなはし:

« 老人は荒野をめざす | トップページ | 有料相談 »